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  • 2013.03.30 Saturday
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【短編】大馬鹿者

他の短編はこちら

「・・・ねぇ」
「・・・zzz(何か聞こえるけど無視だ無視)・・・」
「ねぇってば」

『コンコン』

「・・・zzz(こいつ、俺の安眠を妨げようとしてるのか? いい度胸じゃねえか)・・・」
「ねえ、いい加減起きなさいよ」

『コンコンコンコンコンコンコンコン』


「・・・zzz(うっせえなあ、そうやって机叩かれると頭に響くんだよ・・・)・・・」
「ねえ、ホントはもう起きてんじゃないの?」

『ゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴン!!! ゆっさゆっさゆっさゆっさ』


「うおおおおおおおおおお、これ以上頭悪くなったらどうしてくれんだよお、このアマ!!!」
「やっと起きた! そんなところで寝てないで、さっさとそこどきなさいよ!!」
「ん?ん?ん?・・・zzzzzzzzzzzz・・・」
「って、なんでまた寝てんのよ!! しかも、さっきより眠り深くなってるじゃない!!!」

『ガンッッッ!!!』


「いてえじゃねえか!! 何しやがる!!!」
「悪ふざけがすぎるからよっ。自業自得だわ」

あろうことか、この目の前に立っているアマは俺様の安眠を妨げただけじゃなく、極上のベッドである俺様の机にノックくらわして揺すり利かせた揚句に俺様専用ベッドをクルリンパしやがった。おかげで身体ごと床に叩きつけられる羽目になっちまった。

「この野郎!! ぶっ飛ばすぞ!!!」
「ひとつ言っとくけど、あたし女よ。少なくとも野郎じゃないわね」
「言いたいことはそれだけか? 俺は女子供容赦しねえぜ。整形の準備はできてるかあああああ!?」

俺は女の胸ぐら目がけて一直線にこぶしを突き出した。今まで何度も繰り返してきた行動だ。外すわけがねえ。俺様の安眠を妨げた罪は重いぜ。たっぷりいたぶった後は身体でわからせてやらねえとな。グッヒッヒ。

「おらあああああ」

『スカッ』

完璧に胸ぐらを掴んだと思った瞬間、あろうことか俺のこぶしは女をすり抜けやがった。感触がまったくねえ。これまで数え切れねえほどの修羅場をくぐってきたし、このこぶしでボコったやつらは星の数ほどいやがる。だが、今まさに俺様のこぶしが目の前にいる女の身体を。

「これでわかったでしょ。あなたが何をしようと私には触れることすらできないのよ。無数の修羅場をくぐりぬけてきたあなたでもね」
「・・・こいつっ」

俺は一瞬で理解した。こいつ・・・幽霊ってやつか。これまで無数の修羅場をくぐりぬけてきた俺様だが、幽霊ってやつには出会ったことなかったぜ。まさか、こんなところで出会うなんて・・・いや、そもそも幽霊ってやつがこの世にいることすら信じられねえぜ。だが、たった今、俺のこぶしでもってそれを証明しちまったわけだ。・・・やべえぜ。胸が高鳴りやがる。幽霊ってやつに会うなんてよ。テンション上がりやがるぜ。

「・・・幽霊ってやつか。どうりで俺のこぶしが通じねえわけだ」
「あなた、意外と物分かりがいいわね。そういうわけだから、さっさとそこをどいてほしいの」

俺は一瞬で理解した。こいつ・・・俺様みたいな殺気ビンビンでちょー強いやつの周りにいると、なんつーの、あれだ、デンパってやつがアンテナと一緒にショートしちまうからプレパラートなんだよな。だからこいつ、俺様をここからどかしたいんだな。俺様がいるとここを通れねえから。結局こいつは俺様をびびってるだけじゃねえか。

「・・・あぁ、わかったぜ。悪かったな、俺様が強いばっかりに。さあ、さっさと通りな・・・」
「初めて見た時から思ってたけど、やっぱりあなた馬鹿ね。救いようのない馬・・・」
「っていうと思ったかあああああああああああああ!!!!!! 俺様パーーーーーーンチ!!!!!」

完全に不意をついたぜ。不意をついてからの俺様最強パンチだ。これで沈まなかったやつはいねえ。くらったやつは1カ月メシが食えず飢え死にするしかねえっていう最強パンチだぜ。

『スカッ』

「ぬあああああああああああ!!!」

『ドンッッッ!!!!!!』

次の瞬間、俺様は床に叩きつけられていたんだ・・・。信じられるか? 俺様最強パンチをかわした挙句、一瞬で俺様を地に伏せさせるなんて・・・。

「やっぱりあなた馬鹿ね。いえ、馬鹿の中の馬鹿、大馬鹿者ね」

くそう。俺様としたことが、こいつが幽霊だってことをすっかり忘れてたぜ。じゃあ、俺様はどうすりゃいいんだ。俺様のこのこぶしが通じないとなると・・・。

「なあ、俺様はどうしたらいいんだ? 俺様が信じられるものといえば、このこぶしだけだった。俺はこのこぶしと生きてきたんだ。最高の相棒だったんだ。それが・・・それにさえ裏切られて、なあ、俺様はどうしたらいい・・・?」

女「つべこべ言わず成仏なさい」

「・・・・・・・・・・・・は?」

『ぺたり』

女は俺のひたいにお札のようなものを貼り付けた。いや、これはよく漫画で出てくる幽霊とかに貼り付けて成仏させるお札そのものだ。

「さっきから勘違いしてるようだけど、幽霊は私じゃなくて、あなたのほうよ。やっぱり大馬鹿者ね。自分から殴っといて自分で私の身体をすり抜けて床に叩きつけられて。一度じゃ懲りずにまた同じこと繰り返すんですからね。どっちがすり抜けたのか、普通、感覚でわかるでしょ?」

「・・・・・・・は、はい。・・・・・・・・・え?」

「じゃあね、お馬鹿さん」

『シュウウウウ』

「ぎょえええええええええええ!!!!!!!!!」

「さて、少し時間かかっちゃったけど、相手が馬鹿で助かったわ。いえ、ただの馬鹿じゃないわ、大馬鹿者だったわね。さて、次の仕事は、と・・・」


【短編】魔王と勇者

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勇者?
「くらえぇぇい!!」
まおうの手下?「ちょっ、ちょっと待ってくださいよ。…ぐわっ」
勇者の攻撃に成す術もなく倒れ伏す手下。


勇者のレベルはMAX。
その身には光り輝く鎧、頭には黄金色の兜、右手には切れ味抜群の鋭利な剣、左手には巨大な盾。
常人なら何一つ身に纏うこともできないほどの重量である。
しかし、勇者はその場で身軽に飛び跳ねてみせた。
勇者「けっ、手応えのねー野郎だぜ。これで手下は全部倒したわけだ。あとは親玉である魔王だけか…」


ここはまおうの住む城。
勇者がまおうを滅ぼしに城へやってきた。
ただそれだけの、どこにでもあるRPGの一幕である。
勇者の仲間は全部で3人。
戦士、僧侶、魔法使い。
その誰もが勇者同様、自らの身体を極限にまで高め、その身には神々しい装備品を身につけていた。


勇者「さってと、この扉の向こうに魔王がいるんだな。俺たちの滅ぼすべき相手、人類の敵だ。さっさと倒そうぜ」
3人の仲間は皆一様に頷いた。
自らの意思で頷いた、というよりかは、まるで何かの強制力が働いたかのような機械的な動きをしていたのだが、勇者は気にも留めていない様子だった。


『ドーンッッ!!』
勇者は身の丈の3倍ほどもある扉を思い切り蹴飛ばした。
すると、重々しくも扉は開け放たれた。
その先には台座に座るまおうの姿。
余裕綽々といった様子で佇んでいる。


勇者「おう、魔王さんよぅ。勇者様ご一行がお前を滅ぼしに来たぜ。覚悟しなっ!」
そう言って身構える勇者、とその仲間たち。
数刻後にはまおうに飛びかかりそうな勢いである。


その時、まおうに異変が起こった。
いや、それよりかなり以前から異変は起こっていたのかもしれない。
まおうは、あぶら汗をダラダラ流しながら、全身を震わせているのである。
明らかにまおうの様子はおかしかった。


と、ここで、勇者様ご一行がまおうの城に辿り着くまでのお話をしておくことにしよう。
ごく、ありふれたRPGでの一幕であるのだが。


「あー、勇者になりてーなー。仲間引き連れて、モンスター倒してレベル上げて、んで、悪の大魔王を倒す。めちゃカッコいいじゃん」
この頃はまだ、彼は勇者ではなかった。
現実世界に生きる、ごくごく普通の学生だった。
どうやって勇者になったのかというと…。


まぁ、あれだ。
部屋でゲームをしていた時にゲーム画面に吸い込まれたのだ。
よくある展開である。
かくして、彼は勇者となった。
そこからこの物語は。
いや、この悲劇は始まったのだ。


勇者はまず、仲間を集めだした。
戦士、僧侶、魔法使い。
非常にバランスのとれた、ごくごくオーソドックスなメンバーである。


次に勇者は、魔王についての聞き込みを始めた。
魔王について得られた情報は以下の3つだった。

・この街から北に数十キロ行ったところの山奥にまおうの城があること
・まおうの城から、夜な夜な妙なうめき声が聞こえてくること
・まおうの城には最強武器、防具があること


勇者は次に、民家を訪問した。
土足で立ち入り、タンスを漁り、見つけた金で装備品を整えた。


勇者は街の周辺でレベルを上げ始めた。
次第に、勇者様ご一行の装備品は輝きを増し、見るからに筋骨隆々な身体へと姿を変えていった。


勇者たちは周辺のモンスターでは満足できなくなったのか、東にある街まで足をのばすことに決めた。
そこでも勇者たちは民家へ押し入り、金目の物があれば勇者であることを主張した上で、その全てを持ち去っていった。


住民の中には、彼らの暴挙に耐え切れず寝込みを襲う者もいた。
しかし、彼らの能力は常人のソレを遥かに上回るゆえ、返り討ちに遭ってしまうことが常だった。
もはや、誰も彼らには逆らえなくなってしまっていたのである。


街から街へ転々とする勇者様ご一行。
街での噂は、隣の街だけでなく、遠く離れた辺境の街にまで伝わっていた。

「次はこの街に来るんじゃないか」
「できるだけ穏便にしておこうぜ」
「勇者様がいなくなるまでは家の鍵を開けておけ」
「逆らったら殺されるぞ」


そして月日は流れ、話は勇者たちがまおうの眼前に現れたところまで遡る。


まおうは震えていた。
目は虚ろで、既に放心状態であった。
明らかに勇者を恐れている、そんな様子だった。


勇者「どうした? 身体が震えてるぜ。俺たちのあまりの強さにビビっちまったのかい? 悪の親玉、大魔王様の名が聞いて呆れるぜ」
勇者は、まおうの首筋へ自らの剣をあてがった。
まさに一瞬の間であった。


まおうの足元には黄色い液体がポタポタとこぼれ落ちていた。
勇者「はっはっはっ。まじでビビってやんの。失禁してやがるぜ」
その時、沈黙を続けていたまおうがその重い口を開いた。
いや、恐怖のあまり声が出なかったのかもしれないが、命の灯火が消えようとしている刹那、最後の勇気を振り絞ったようにも見えた。


まおう「……わたしが何をしたというのだ……」
勇者「はぁ?」
まおう「……平和に暮らしていただけではないか……」


勇者「…………ぎゃっはっははっ。おいみんな聞いたか!? わたしが何をしたというのだ、だってよ! 悪の大魔王様がよく言うぜ。なぁっ!?」
勇者の傍に佇む3人の若者は、皆一様に唇を閉ざしていた。
しかし勇者は、その様子を肯定の意に捉えたようだ。


勇者「ほらなっ! お前らもそう思うよな? こいつは人類の敵だ。滅ぼされるべき存在だ。そのために俺がいる。だからここへやって来た」


まおう「……よくも最愛の妻を殺したな……。……妻だけでなく我が愛すべき5人の子供までも……。そして、付き人、家政婦、不運にもこの日に遊びに来ていた我が従兄弟までも手にかけよったな……。……わたしたちが何をしたというのだ……。……誰にも迷惑をかけていなかろう? 確かに深夜、我が息子達がはしゃいでしまい、街の者たちに迷惑をかけたことはあったかもしれぬ……。だがそれだけじゃろう? それぐらい、普通の民でもあることじゃないのか?……」


勇者「なに戯言を抜かしてやがんだ、こいつ? 気でも狂ったか? そこまでして命乞いしたいか? 今まで人類に迷惑かけてきといてよぉ。お前が言う最愛の妻だって、街からさらってきた女だろ? 無理やりこの城に幽閉してんだろ? 貧しい村の畑を焼き払ったり、民家を壊して回ったり、ひでぇことしたんだろ? お前は? だから俺はお前を殺す。そのためにやってきた」


まおう「……そんなこと身に覚えが無い……。我が妻とは互いに愛し合っていた。その結晶である子供も5人も授かった。まさに神様からの授かりもんじゃ。付き人も家政婦たちも、よう働いてくれとった。みんな幸せに暮らしとったんじゃ。……お前たちが来なければな……」
勇者「……うるさい……」


まおう「街の噂は聞いておるぞ。お前たち、住民たちに恐れられているそうじゃないか。土足で家に入るわ、大切な生活品を持ち去るわで、散々だったとな。わたしのこの城だってそうだ。誰に許可を得て入っておる? ただ許可の有無を聞いただけの家政婦も問答無用で切り捨てよって。そこの若者じゃって、そいつに無理やり連れてこられたんじゃろ? わたしにはわかる。わかるぞ。 ……お前こそ悪の化身じゃ! お前たちのほうがよっぽど悪者じゃ! さっさとここから立ち去っ……」
勇者「……うるさいって言ってんだろ……!」


『ドシュッッッ』
勇者は一瞬のうちにまおうのクビを刎ねた。
その太刀筋は見事であった。
クビを刎ねて生きていられる生物はいない。
まおうとて例外ではなかった。


勇者は息を荒くしながら、勝利の余韻に浸っていた。
勇者「魔王は滅んだ。俺のこの手で……。これで世界は救われる」
勇者は不気味な笑みを浮かべながら、天に向けて咆哮した。
勇者に連れ立った3人の若者は、皆一様にその場に立ち尽くしていた。


そして、時は流れた。


勇者は僧侶と契りを交わし、3人の子供を授かった。
勇者は巨万の富を得、街の外れに巨大な城を築いた。
付き人として、かつての仲間、戦士と魔法使いを雇った。
子供の成長期には家政婦を雇い、平和に暮らした。


十数年もの間、戦とは無縁であったからか、勇者にはかつての神々しさは無く、あれほど盛り上がっていた筋肉も影を潜めた。


……そして、再び悲劇の幕が上がる。


勇者「お前が魔王か。俺は勇者だ。お前を滅ぼすためにやって来た」
強烈なデジャブを感じながら、彼はクビを刎ねられる覚悟を決めていた。


……あぁ、悲劇は何度でも繰り返される……。


【短編】嘘を付いているのは誰だ

他の短編はこちら

こんにちは。
そう、私は画面の前にいる『あなた』に喋っているのですよ。
私はこういうものです。
『私立探偵:染井ほのか』
職業はしがない探偵をやっています。
収入はそこそこ。
近頃この業界も不況で生きていくだけで精一杯なんですよ。


と、私の話などはどうでも良いですね。
では本題に入ります。
あなたには私と一緒に今回の事件における犯人を見つけて欲しいのです。


この犯人というのがなかなかにずる賢くて、尻尾を掴んだ、と思った次の瞬間には瞬く間に闇夜に消えてしまう。
いやはや、私も手を焼き切っているのですよ。


そこで、あなたに。
そう、画面の前にいるあなたに協力を要請しているのです。
無理にとは言いません。
もし、よろしければ、しばらくの間お付き合い願えたら。
そう思います。
不都合がございましたら、断ってくださって結構です。
どうぞ退席なさってください。


・・・・・・・・・・
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ここまで待っていただけたということは肯定の意に取ってもよろしいのでしょうね。
ありがとうございます。
ご協力感謝致します。


さて、早速ですが本題に入ります。
本作における犯人は1名。
しかし、容疑者は多数。
容疑は殺人。
もちろん、本作の登場人物に限ります。
性別、年齢、職業、容姿などは全くもって不明。
残念なことではありますが、手がかりはほぼゼロに等しいです。


しかし、先ほども言いました通り容疑者は多数。
容疑者らの住所等は既に調査済みですので、あなたが聞き込みに行こうとお思いになられるのであれば、今すぐにでも実行可能です。


・・・あ
っと大事なことを言い忘れていました。
先ほど話したと思いますが、犯人はとてもずる賢い人物で容疑を免れよう免れようと必死で、至って平然と『嘘』をつきます。


そして、ここからが一番大事なお話。
しっかり頭に刻み込んでおいてください。
『嘘をついているのは1人だけ』
そのことをよく覚えておいていただけたならきっと、あなたは犯人を見つけることができると私は信じています。


いやいや、すみませんね。
あなたお一人にだけ任せたような言い方をしてしまいまして。
もちろん、私も最大限の努力をさせていただきますよ。
私はあなたの手となり足となり、お望みの情報を仕入れてきて、あなたにご報告致します。
だから、あなたは画面の前に座っているだけで結構なのですよ。


では、早速ですが調査を開始いたしましょう。


さて、まずはあなたに言われた通り、被害者の親友であるAさんに聞き込み調査を行ってきました。
Aさんは事件のあった時間帯、駅前の映画館で映画を見ていたとのことです。
映画の半券をお持ちで、日付と時間帯は確かに事件発生時刻と一致します。
現時点では、Aさんには犯行は不可能であるように思われます。


次に、被害者宅マンションの隣に住むBさんに聞き込み調査を行ってきました。
Bさんは事件のあった時間帯、近くの喫茶店で友人とお茶を飲んでいたとのことです。
その友人にお聞きしたところ、確かに事件発生時刻にその店でお茶を飲んでいたという証言が得られました。
ですが、店の店長に聞いてみると「そんな子来てたかな〜」という証言も得られました。
現時点では、Bさんが友人と口裏を合わせさえすれば、犯行は可能であると言えます。


次に、被害者の恋人であるCさんに聞き込み調査を行いました。
恋人を失った悲しみに暮れるCさんに調査を行うのは心が痛みましたが、自らの容疑を晴らし、一刻も早く犯人を捕まえるために、ということで話していただきました。
Cさんは事件当日、被害者とドライブ、つまりデートですね、をする予定だったとのことです。
約束の時間になっても待ち合わせ場所に現れない、電話をかけても一向に出ない被害者が心配になり、被害者宅へ駆けつけたところ、血まみれで倒れていた被害者を発見した、とのことです。
つまり、Cさんが第一発見人物ということになります。
その後、すぐさまCさんは警察に連絡し事情聴取を受けた後、自室で放心状態になり寝込んでいたとのことです。
厳しい言い方になりますが、Cさんには何のアリバイもありません。
私情のもつれで恋人を殺害してしまうという話もよくありますし、Cさんが犯人である可能性はあると思います。


次に、被害者とは何の繋がりも無いように見えるDさんに聞き込み調査を行いました。
なぜDさんに容疑がかけられたかというと、被害者宅の玄関付近からDさんの指紋が検出されたからです。
Dさんの話によると、Dさんはトラック運送の仕事をしており、被害者宅への荷物配達の際に自宅玄関付近に立ち入り、その時に指紋が付いたのではないかということです。
しかし、その配達時刻が問題で、被害者の死亡推定時刻のほんの十数分前なのです。
Dさんは容疑を否認していますが、Dさんが犯人である可能性は高いと言えるでしょう。


最後に、被害者と同居していた弟さんにあたる、Eさんに聞き込み調査を行いました。
Eさんが言うには、事件当日は酷い頭痛に悩まされ、ずっと自室で寝込んでいて何も覚えていないそうです。
しかしですね、警察の調べによると殺害の凶器に使われた包丁からはEさんの指紋がべったり付いているんですよ。
Eさんは真っ向否定していますが、もう犯人はEさんで決まりでしょう。
疑いの余地はないですよね。


・・・?
なんでしょう?
犯人はEさんで決まり?
まあ、そう焦らないでください。


実はですね、三日前に入った情報によると犯人の有力候補だったEさんの遺体が自室から見つかったそうです。
その容疑者は、先ほどご紹介しましたAさん、Bさん、Cさん、Dさんなんですよ。


それでですね、一昨日入った情報によると、Eさん殺しの有力候補だったDさんの遺体が自室から見つかったそうです。
その容疑者は、先ほどご紹介しましたAさん、Bさん、Cさんなんですよ。


さらにですね、昨日入った情報によると、Dさん殺しの有力候補だったCさんの遺体が自室から見つかったそうです。
その容疑者は、先ほどご紹介しましたAさん、Bさんなんですよ。


それで、今朝方入った情報によると、Cさん殺しの有力候補だったBさんの遺体が自室から見つかったそうです。
その容疑者は、先ほどご紹介しましたAさんなんですよ。


そして、そのAさんの遺体が先ほど自室から見つかったそうです。


もうわけがわからなくなってきましたね。
私もそうです。
最も疑わしい容疑者が次の被害者となり、犯人はどこかへ逃走。
以後、それの繰り返し。
果たして、犯人は誰なのか?
複数いるのか、もしくは同一犯の犯行なのか?
私にはもはや手に負えない事件になってしまいました。
だから、あなたに、この画面を見ているあなたに事件を解決し、犯人を見つけ出して欲しいのです。
あなたなら必ず見つけられると信じて。
ここで幕を下ろさせていただきたいと思います。


【短編】あーちゃんの不思議な体験 外伝〜よっちゃん編〜

他の短編はこちら
△ら

「ねぇ、よしちゃん」
よしちゃん「ん、なに? お母さん?」
よしちゃん『またこの夢・・・』


「今からね、とっても大切なことを言うから、驚かずに聞いてね。よしちゃん、本当はね、あなたはお母さんとお父さんの子供じゃないの。ううん、そんな言い方は良くないわね。よしちゃんはとっても大事な子。目の中に入れても痛くないほどよ。これは本当。でもね、よしちゃんはお母さんから生まれた子じゃない。お母さんがお腹を痛めて生んだ子じゃないの。ね、言ってることわかる?」
よしちゃん「・・・うん」


「よしちゃんはね、今からちょうど5年前、そうね、あなたが生後まもないころに、ある夫婦から譲り受けた子なの。その人はね・・・。いいえ、本当はそんな話、どうでもいいの。とにかくね、お母さんとよしちゃんはね、親子じゃないの。血のつながりなんて微塵もない、生物学的には真っ赤っ赤の他人同士なの。だからね・・・」
よしちゃん「・・・うん」


「だからね、だからね・・・」
よしちゃん『・・・もう嫌だ』
よしちゃん「・・・うん」


「だからね、だからね、だからね・・・」
よしちゃん『こんな夢・・・みたくない!!』
よしちゃん「・・・うん」


「だからね・・・、あなたは今すぐこの家から出て行きなさい」
よしちゃん『みたくない!!』


よしちゃん「はぁ、またあの夢かぁ。嫌なこと思い出しちゃったなぁ。寝覚めサイアク」
そう呟くと、よっちゃんは、ううん、ここではよしちゃんね、よしちゃんは、急いでパジャマから制服に着替え始めたの。


よしちゃん『あの夢は今からだいたい10年前、あたしが幼稚園を卒園する頃のもの。うん、あれは実際にあったことだよ。一字一句違わずね』


あれ? よしちゃん、今喋ってないよ。あぁ、なるほどね、この、何て言うの? 『』←これこれ。これはよしちゃんが心の中で思ってることなんだね。


よしちゃん『あの後、あたしは家を飛び出して、町中を走り回ったんだっけ。とにかく悲しくて、でも、涙は一滴も流れなくて、ただただ悲しくて、夢中で走った。その結果、道路に止めてあった車に勢いよくぶつかって転倒。頭を強く打って病院に運ばれたんだっけ。あはは、何ともみっともないことだけどね。目が覚めたら病院の白いベッドの上で、お母さんが、ごめんね、ごめんね、よしちゃん、ってあたしの手を握って泣いてたんだっけ』


あっという間に制服に着替えたよしちゃんは、リビングに向かいました。
テーブルの上にはラップをかけられた朝食、そしてお弁当。
よしちゃんは無言でラップを外し、これまた無言でさっさと朝食を口に運ぶ。
食べ終わると、お弁当を無造作にかばんに突っ込み、家を出た。


よしちゃん「・・・」
よしちゃん『いってきます』


よしちゃん『うーん、結局ね、ネタばらししちゃうと、お母さんはあたしを試したかったんだと思うんだ。あたしってね、小さい頃から誰にも懐かないような子でね、だから。だから、あんな嘘をついたんだと思う。あたしとお母さん、お父さんは正真正銘の血の繋がった家族。あたしはお母さんのお腹の中から生まれた子、これは間違いないこと。でもねぇ、急に、あなたはうちの子じゃないから出て行きなさい、これはさすがに無いよねぇ』


よしちゃんは、まだ、家を出てから「誰とも」話してない。
楽しそうに笑いあってる人たちを尻目に、さっさと、一直線に学校までの道のりを歩く。
・・・ごめんね、よっちゃん。


よしちゃん『あっ、あの子のお母さん見たことあるよ。もう還暦前だってのに、頭は金髪、手にはマニキュア、時代遅れのイケイケファッションを身に着けて、おまけにミニスカートで授業参観に来てたんだよ。笑っちゃうよね。クラスのみんな、はたまた先生までもがあぜんぼーぜん。なのに、その子とイケイケママは全然気にした様子がなくて、手を振りあって笑ってた。あの親にしてあの子ありだよね。だって見てよ、ほら、あの子。腰の辺りで折り込んでスカート短くしてるでしょ。それに耳にピアスなんかしちゃってるし・・・、あっ、よく見ると髪の毛茶色い。ああやって、不良になってくんだろうな。へっ、ざまぁみろだよ』


よしちゃんは「誰とも」喋ることなく、学校に着いた。
ん?
下駄箱で何か見つけたみたい。


よしちゃん『・・・、また上履きに画鋲ね。よくやるよ、こう毎日毎日、誰かは知らないけど。まぁいいや、この画鋲、あの子の上履きの中に移し変えとこ。へっ、あんたは周りから浮いてるってことに気付いてないんだよ。不良にはお似合いだよ』


よっちゃん・・・。


女の子C「よしちゃん、おはよー。ねぇねぇ、昨日の数学の宿題ってやった? できれば見せて欲しいんだけどさ」
よしちゃん「ん、いいよ」
女の子D「えっ、まじ!? あたしもあたしも。よしちゃん〜、見せてよ〜、ねっ、一生のお願い」
よしちゃん「うん、別にいいよ」
女の子C&D「やったぁ」


よしちゃん『けっ、何が見せて欲しいだ、普段はあたしのことなんか空気のようにしか思ってないくせに、こんな時だけ使い勝手の良い道具みたいにあたしのこと扱ってさ。それに何? 一生のお願いって、あんたの人生は何回あるんだよ。ふん、あたし知ってるんだ、Cちゃんのママってね、風俗で働いてるの、あたし知ってるんだ。いっつも夜中に出かけて、夕方帰ってくる。男たちの、社会で浴びた汚れを全部吐きかけられてる、そんなママなんだ。ほら、見てよ、Cちゃんの顔。見るからに風俗嬢っぽくない? あれは絶対、将来、風俗嬢になるね。ママの跡を継いで・・・なんて。あはは、笑っちゃうね。おまけにパパは当たり屋やってるんだって。当たり屋って知ってる? 自分の乗ってる車とかをね、わざと相手がぶつけたように見せかけて、賠償金とかを騙し取る仕事。うふふ。ところで、Dちゃんのママとパパってね、H大学らしいよ。H大学ってね、この辺りではチョー有名でね、何が有名って、一言で言えば、アホ、ね。あんなとこなら入らないほうがマシ、お金の無駄、ってくらいの大学。周りがうるさすぎて授業なんて成り立ってない、ってよく聞くし、そもそも、遊ぶために来てるもんだから、勉強なんて一切しないし、それでも卒業できちゃうっていうんだから笑っちゃうよね。おいおい、中学生のほうが勉強できるだろ、ってぐらい。うふふ。だからね、DちゃんもH大学行くと思うな。だってね、Dちゃんのお兄ちゃんね・・・、H大学行ってるの!お兄ちゃんがパパで、Dちゃんがママで、両方ともH大学。あはは、進化の欠片も見られないね。むしろ退化してるんじゃないの、ってぐらいだよ。あんたたち、ちゃんと両親の遺伝子受け継いでて良かったね。あんたたちはどこからどう見てもあの親の子供だよ。ちゃんと血の繋がった、ね』


はぁ、いつからこんなのになっちゃったの、私のよっちゃん。
・・・?
あぁ、よしちゃんね。
よしちゃんは、特に誰とも話すことなく、一人でお弁当を食べて、まじめに授業を受けて、一人で掃除をして、学校を後にしたの。


よしちゃん『あたしね、美しい子って書いて、よしこ、っていうの。だからよしちゃん。でもね、あたし、この名前、ほんとは・・・嫌い。だって、あたし、名前に合ったような顔してないもん。だからね、名前って、ほんとに大事。だって、物には全部名前が付いてて、もし、名前が無かったら、ただの物だよね。そういえば、昔、悪魔ちゃん、って名付けられた子がいたよね。もし、あの子があの名前のまま大きくなったとき、あの子はどう思うんだろう? たぶん、今のあたしと同じようなことを思うんだと思う。名前の持つ力に気付けなかった、幼少時代。名前っていうのは、一種の鎖なんだ。身分とか、家柄とか、そういうものと同じ。ううん、そんなものより、もっと大きくて、果てしない拘束力を秘めた、あたし達がこの世に生れ落ちてから、初めて背負う、鎖なんだ。だからね、ほんとはね、あたしのことは、よっちゃん、って呼んで欲しい。そうすればね、あたしって、今よりもっと素直で、今よりもっと元気で、今よりもっと良い子になって、自分より大切、って思えるぐらいのお友達ができる。そう思うことがあるの』


よしちゃん『でも、それはただの空想、今のあたしには関係のないこと。ほら見てよ、あの家族。お父さんの肩にぶら下がってる子、目元のあたりがお父さんにそっくり。おまけにあの、お母さんと手を繋いでる、あの子。お母さんと瓜二つじゃない。誰がどう見ても、あの家族は家族だね。血の繋がった、家族。あっ、見てよ、あの大家族。子供何人いる? ひい、ふう、みい、よう、いつ、むう・・・、9人! 9人もいるよ。しかも、みんなパパ、ママにそっくり』


よしちゃん「ふんっ、あんたたち、もっとカッコいいパパと、美人のママが良かったよね。あんな不細工な親で、ほんと恵まれない子、かわいそう。どうせ快楽の結果でしょ。あぁ、ほんとかわいそうな子供。もっとさぁ、カッコいい人とかさぁ、頭の良い人がさぁ、子供いっぱい作ったほうが、世の中良くならない? そしたらさぁ、事件とかも減るだろうし、それでいて、町中が美男美女で溢れてさぁ、おまけにみんな頭が良いから、みんなで協力して地球温暖化問題なんか、あっという間に解決しちゃってさぁ、ほんと、そう思うんだけど」


よっちゃんは、自分でも気付いてないのでしょうけど、いつの間にかボソボソと声に出して、誰に話すでもなく、独り言をただただ繰り返していました。


・・・私は、もうこんな世界、うんざり。
よっちゃんもさ、こんな世界に、未練なんか無いよね。


だから・・・、私たちがミてあげる。
だからね、よっちゃんは大丈夫。


さぁ、一緒にいこ。
私と一緒に・・・。


よしちゃん「だからさぁ、今、精子バンクとかあるじゃん。ノーベル章とった人とか、遺伝子的に優れた人の精子を保管しておく施設みたいなの。あれってさぁ・・・。・・・? なんか誰かに見られてる気がする。誰だろ」


よっちゃんは振り返ります。
でも、誰もいません。
「誰」もいません。
そう、よっちゃんの周りには人の気配が消えていたのです。


よしちゃん「えっ、何これ。なんなの、これ!?」


めでたし、めでたし。
ここから先の話は、私の口から語るまでもないでしょう。
まぁ、ご想像にお任せする、とだけ言っておきますね。
うふっ(はぁと)。


ぽかっ。
あーちゃん「あいたっ」
よっちゃん「なーにが、ご想像にお任せする、とだけ言っておきますね、うふっ、だよ。あーちゃん気取りすぎ。」
あーちゃん「あっ、よっちゃん。おかえりー」


よっちゃん「うん、ただいま。ねぇ、聞いてよ、今日ほんと大変だったんだからさぁ。ランスっていう強姦魔がさぁ、無理やりあたしのことをさぁ・・・。ところで、あーちゃん、さっき何話してたの? っていうかこの部屋、あーちゃんしかいないよね。もしかして独り言ー? あーちゃん、おっかしー」
あーちゃん「うーん、独り言って言えば独り言なのかも。でもね、とっても大事なこと。私たちの今の状況をね、説明するにはね、必要不可欠なことだったの。だからね、だからね」


よっちゃん「はいはい、わかったから。あーちゃん、落ち着いて。画面の向こうにいる人に説明してあげてたのね。あたしがここに来るまでの顛末を」
あーちゃん「うん、そうなの。ダークよっちゃんをね、みんなにご紹介してたの」
よっちゃん「えーっ!? やめてよ、恥ずかしいなぁ」


あーちゃん「でもね、よっちゃん、ここに来て良かったでしょ?」
よっちゃん「・・・うん。たぶん・・・ね」
あーちゃん「うう、よっちゃん、なんか乗り気じゃないね」
よっちゃん「ううん、そんなことないんだけど。だけどね・・・」


あーちゃん「うん。わかるよ、その、よっちゃんの気持ち。私もそうだったもん。下から抜け出して初めてここに来たときは」
よっちゃん「あーちゃんも、か」
あーちゃん「うん」


よっちゃん「でも、あたしは後悔してない。だって、あーちゃんと一緒に、いられるんだもん」
あーちゃん「うん。私も」


よっちゃん『お母さんとお父さん、今ごろ何してるかなぁ。お仕事忙しくて、朝は一緒にいられなかったけど、夜は必ずみんなでご飯食べたよね。休みの日には、よく遊びに連れてってくれたよね・・・』


あーちゃん「・・・うん」


そしてまた、今日も、人間たちの欲望を満たすために、二人は仕事に出かける。


【短編】あーちゃんの不思議な体験

他の短編はこちら
,ら

あーちゃん
「・・・まばたきしてる」
空に浮かぶ無数の眼は一斉に、寸分違わず同時にまばたきをしていた。
あーちゃん「・・・なにあれ」
ただただ気持ち悪かった。
こんなことあり得ない。
でも実際に起こってしまってる。
少し冷静になろうと思い、視線を水平に戻す。
辺りはまだダーク系の色で包まれている。


そこに車があった。
無意識のうちに車を見つめる。
まばたきをした。
その両眼は車のライトだった。


そこに信号があった。
無意識のうちに信号を見つめる。
まばたきをした。
その三眼は赤・青・黄の色に染まっていた。


あーちゃん「・・・いや」
世界はどうなってしまったのだろう。
ついさっきまで、いつもと変わらない日常を繰り返してたはずだった。
あーちゃん「・・・どうして」


ふと気付く。
周りにはヒトの姿がない。
あーちゃん「・・・よっちゃん」
よっちゃんもいない。
あーちゃん「よっちゃーーん!!どこー!? いたら返事してー!!」
私は力の限りに叫んだ。
こんな声出したの初めて、っていうくらいの大声。


と同時に涙が溢れてきた。
何が悲しいのかはわからない。
ううん、本当はわかってるけど。


あーちゃん「よっちゃーん!!!!どこにいるのーー!!」
よっちゃん「・・・あーちゃん。あーちゃん!あーちゃん!!落ち着いてよ!どしたの?! あたしはここにいるから!ほら、あーちゃんの隣に!!」
ふと両手に感触があって、ソレに顔を向けるとまた両眼が私を見ていた。
あーちゃん「いやー!!」
よっちゃん「あーちゃん、あたしだって!!よっちゃん!!」


その瞬間、無数の視線が一斉に消え去った、気がした。
私の前には必死の形相で私の両手を握るよっちゃん。
あーちゃん「・・・よっちゃん。おはよ」
よっちゃん「おはよじゃないよ。急に倒れたと思ったら、大声出し始めるし。あーちゃんのあんな声初めて聞いたよ。あたしビックリしちゃった。それに・・・恥ずかしかったよ。ほらギャラリーができちゃってるから、ここから離れよ」
あーちゃん「うん。ごめんね」
よっちゃん「いいよ。いいこともあったし、えへへ」


あれは一体なんだったのでしょう?
あんな体験は一度きりにしてほしいです。


よっちゃん「げげげっ、おまる大百科、付録は世界で初めて作られたおまるの形をしたキーホルダーだって」
あーちゃん「うん。おしかったね。トイレじゃなくておまる」
よっちゃん「いろんな世界があるんだねぇ、あんなの売れるのかな?」
あーちゃん「あっ、隣に世界のトイレの花子さんって本あるよ。花子さんって世界中にいるんだね。100物語ふうになってるんだって」
よっちゃん「トイレはもういいや」


その夜、また視線を感じました。
と思ったら鏡に映った自分の両眼でした。
あれは何だったんだろ?
今思えば、この事件がきっかけ。
これから起こる出来事の全ての始まりだったように感じます。


あーちゃん「明日は9時に○○駅、持ち物は水着と日焼け止め、約束はやぶらない、遅刻はしない、よっちゃんがおちこんだら・・わたしが・・・はげます・・・・・・zzz」


次の日、7時起床、8時出発、8時30分に駅に到着。
さすがによっちゃんはまだ来てないみたい。
あーちゃん「・・・あれ? あたしって今日顔洗ったっけ? トースト食べたっけ? 鏡に向かって微笑んだっけ?」
まあいいや。
そんなのたいしたことじゃない。
毎日やってることをたまたまやり忘れただけです。


現在時刻9時。
あーちゃん「おかしいなぁ。約束は破らない、遅刻はしない」
現在時刻10時。
あーちゃん「うーん。よっちゃん病気かなぁ」
現在時刻12時、15時、18時。
あーちゃん「やっぱり来ないなぁ。じゃ帰ろっかな」
辺りは夕焼け、もうじき夜の闇が包む時間。
あーちゃん「・・・あれ? あたし、こんなに長い時間、駅で待ってて何してたんだろ? ついさっきのことなのに思い出せない。まぁいいや」
帰宅、鏡の自分にスマイル。
おやすみ。
明日はいい日でありますように。


あーちゃん「あたし。あたし。・・・あたし? あたしってあたしだっけ? ま、いっか。おやすみ」


7時起床、今日から1週間の始まり、学校です。
あーちゃん「・・・あれ? あたし昨日なにやったんだっけ? 駅にいたのが土曜日で、そしたら昨日が日曜日で、今日が月曜日。最近よく記憶が飛ぶね。まぁいいか。いってきまーす」
でも、返事はなかった。
当たり前だよ。


だって、あたしってずっと一人暮らしだったし。


学校到着、席に着く。
途端に違和感。


あーちゃん「何か忘れてるような。毎日やってたことがあったはずなんだけどなぁ。まぁいいや、授業授業。1時間目は物理ね、量子力学って面白いから大好き。あのね、あたし達の上にはね、他の人がいるの。人っていうか神様みたいなもので、あのね、1次元って点でしょ? 2次元が線、3次元が面、これがあたし達ね、でね、4次元が時空なの。もしね、あたしがね、2次元に立ったらね、線と点が見えるの。3次元に立ったらね、面と線と点が見えるの。でね、もし4次元に立ったら、あたし達は3次元だから不可能なんだけどね、時間と面と線と点が見えるの。時間が見えるってわかる? 例えばね、あたし達みたいに面が見えたらね、サイコロをくるくる回転させられるの。そうしたら、サイコロの面が全部見えるでしょ? もしね、あたし達が2次元だったらね、線しか見えないからサイコロの一部の表面しか見えないの。言い方を変えたら、2次元が平面で3次元が立体ね。でね、でね、もしあたし達が4次元だったらね、サイコロをくるくる回転させなくてもね、いっきに全部の面が見れちゃうの。すごく便利でしょ? それにね、時間の流れも見えるからタイムスリップなんてお手のものなの。ね? 物理って面白いでしょ」


あたしは誰に向かって話していたのでしょう。


あーちゃん「キーンコーンカーンコーン♪お弁当の時間だね」
あたしはあたし自身に声をかける。
なんだか懐かしい。
よくわかんないけど、さっきから涙が止まらない。
あたし、どうしちゃったんだろ。


っていうか、なんで誰もいないのに、勉強教えてくれる先生も、生活を共にするはずの生徒も。
誰一人として、いつもはうるさいニワトリでさえもいないのに、あたしはここにいるんだろう?
よくわかんないけど、これが正しいんだと思う。


いつの間にかあたしは帰宅していました。
あーちゃん「おやすみなさい。よっ・・・ちゃ・・・・・・ん」


起きたら、そこは真っ白なベッドの上でした。
白いのはベッドだけではありません。
壁も真っ白、窓も真っ白、外も真っ白。
もしかしたらあたしも真っ白なのかもしれません。


突然、最初からあったかのように部屋の隅に扉が出現して、誰かが入ってきました。
不思議なことに誰なのかはわかりませんでした。
ダレ、であるかも理解できません。
ただ、知覚だけはできました。


「あなたは誰?」
あーちゃん「あたしは。あたしは・・・」
「あたし? あなたはあたし?」
あーちゃん「あたし。あたしは・・・。ううん、ちがう。私はあたしなんかじゃない。私は私。私は私だから私なの!」


「ブラボー!おめでとう!キミは選ばれし者だ!」
あーちゃん「・・・え? どういうこと?」


「うーん、詳しくは言えないんだけど、というか、まずは俺のほう向いて喋ってくれる? あんたどこ向いて喋ってんの? そっち壁なんだけど」
あーちゃん「だって、周りは真っ白で、私も真っ白で、誰かいるみたいだけど誰もいなくて・・・。あれ? 見える。おじさん誰?」
おじさん?「おじさんねぇ。まだ20代なんだけど・・・。まぁいいや、とにかく、キミは選ばれたんだよ、おめでとう!」


あーちゃん「だから、よくわかんないんだけど、おじさんの言ってること」
おじさん?「まぁ、詳しいことは追々ね。今日はとりあえず、覚醒と報告と・・・、あれ? 今日って今日だっけ? 最近時間の感覚が無くてねぇ、困っちゃうよ」
あーちゃん「うん。よくわかんないけど、もういいや」
おじさん?「よし、ものわかり良くてよろしい」


あーちゃん「あっ!」
おじさん?「なんだ? メシはまだだぞ」
あーちゃん「ちがうって、よっちゃんだよ。よっちゃん。私の友達のよっちゃん」
おじさん?「ふむふむ、よっちゃんね。そんなやつは知らん。今回選ばれたのはキミだけだと上から連絡が・・・」
あーちゃん「上から? 連絡?」
おじさん?「おっとここからは秘密だ。クビになると俺も困るんでね。とにかく、ほっちゃん? よっちゃんか。よっちゃんはここにはいない。まだ下にいるんじゃないのか」


あーちゃん「いろいろとわかんないことがあるけど、もういいや。とにかくよっちゃんに会わなきゃ。一日が始まった気がしないよ」
仲間?「まぁ、あんたも俺らの仲間だし、やめろとは言わないけど。まずはミるだけにしといたほうがいいぜ。それでこっちに連れ込んじまえばいいじゃん。どうしてもっていうんなら俺も仲間に頼んで一緒にミてやっから。まぁ、資格がなけりゃ覚醒せずにお陀仏だけどな。はっはっは」


あーちゃん「・・・もういい。今度一から説明してもらうからね。今日のところはおとなしくしとく。ねぇ、おじさんのこととか教えてよ」
俺さま?「うーん、仕方ないなぁ。ここは一つ、俺さまの武勇伝を聞かせてやるとすっか。ところでよ、あんたって何て名前なんだ? あんたって名前じゃねぇだろ?」
あーちゃん「うん。私はあーちゃん。あーちゃんって呼んで」
俺さま?「おいおい、おかしなこと言うやつだな。あーちゃんは、なんつーか、あだ名みたいなもんだろ? 元の名はなんていうんだよ」


あーちゃん「しょうがないね。おじさんだけに特別に教えてあげる。あーちゃんはね○○○っていうの」
俺さま?「ひらがな三つで○○○か。いい名前じゃねぇか。まだお子ちゃまだけどな」
ひらがな三つで○○○「ありがと。んで、お子ちゃまとかうるさい」
俺さま?「おーこわ。つーことで、俺さまの武勇伝、お聞かせするぜ」
○○○「うん、たのしみ」
俺さま?「うぉっほん。あー、あー。むかしむかしあるところに、・・・・・・・・・、ってなわけよ。めでたしめでたしーってな。どうだ、俺さまはすげぇだろ? なっ? なっ?」


○○○「うん、ナタ持った女の子に追いかけられたりとか、凶暴な女の子二人に注射器向けられたりとか、おまけに電話ボックスで血を吐いて死にそうだったとことか。すごかった」
俺さま?「あぁ、あのときはマジでやばかったぜ。まぁ、詳しく話すと祟りにあっちまうから詳しくは言えねぇんだけどよ」
○○○「あとね、病院の最上階にいた女の子を連れ出して車で1号線をドライブしたりね、あんまんと一緒に転がってきた女の子を助けてあげたりね、ラーメンセットが食べたくても食べれなくて防波堤で飢え死にしそうだったとかね。ほんとすごかったよ」
俺さま?「だろだろ? 俺さまってすげぇのよ、ほんとに」


○○○「うん、わかった。おじさんところでさあ、おじさんの名前教えてよ? おじさんはおじさん? おじさんは俺さま?」
おじさん?「あん? さっきの俺さまと同じ質問しようってか?よし、今回だけ特別に教えてやろう。俺さまはな△△△っていうんだぜ。漢字三つで△△△だ」
○○○「ふぅん、漢字三つで△△△。いい名前だね、私の名前と同じぐらい、いい名前」
漢字三つで△△△「あぁ、ありがとよ。・・・おっと、そろそろ時間だ。俺さまは今日も忙しくてな、仕事が山積みだぜ。そのうちお前にも仕事が来るからよ、詳しいことはそのときまとめて教えるぜ。じゃな」
○○○「なんかまたよくわかんないことが増えたけど・・・。うん、もういい。じゃね△△△さん、いってらっしゃい」


こんなことがあった。

外伝へ続く


【短編】あーちゃんの不思議な体験

他の短編はこちら

ねぇ、知ってる?
ここはね、不思議な世界なの。
私ね、いっつも誰かに見られてる気がするの。
見られてるから私が存在してる、そんな気すらしてくるの。
まるで、見られてないうちは私がこの世界から消えちゃったような感覚。
考えただけで怖くなっちゃう。


ねぇ、例えばさ、動物の犬さんいるじゃん。
犬さんってさぁ、自分がもっと大きな存在、この場合は飼い主である私たちね、に飼われてるって気付いてるのかなぁ?
犬さんにもね、ちゃんと食欲はあるし、もちろん性欲もあるし、睡眠欲もあって、散歩もするし、他の犬さんとすれ違ったら何らかの反応を起こすよね。
でもね、犬さんにとっては私たちのことは見えてないんじゃないかなって、そう思うときがあるの。


よくあるよね、過剰な愛情を注ぐ飼い主さんが、犬さんにカラフルで派手なお洋服を買ってあげたりとか。
あれって、犬さんからしてみれば邪魔なものの何ものでもないらしいよ。
犬さんは色の識別なんてできないし、発汗作用の妨げになったりもするよね。
だからね、そういうこと。
犬さんが誰かに飼われてるっていうことを知らないのと同じように、私たち人間も、もっと大きな存在に飼われてるんじゃないかな?
ただ私たちが気付いてないだけで。


だって、ほら。
今日もお空には、無数の眼が・・・。
ほら、こっちを睨んでるよ、まばたきだってするんだよ。
ねぇ、あなたには見えない?
ミえないの?


女の子A「いってきまーす」
その日はいつもと何も変わらない普通の日でした。
ごくごく普通の日。
朝起きて、顔を洗って、制服に着替えて。
朝食はいつも通りトーストで済ませて、身だしなみをチェックして、「よしっ」。
今日も自然に笑えてるよね、鏡の自分に問いかけてから家を出ました。
退屈な日常、毎日同じことを繰り返す。


女の子B「あーちゃん、おっはー」
あーちゃん?「うん、おはよー」
通過儀礼のように交わされる挨拶。


女の子B「ねー聞いてよー。うちの母親ったらね、また嫌味いうんだよー。お隣のひろくん、このあいだの全国模試で3番だったんですって、すごいわね、うちの子とは大違い、だって。あたしはあたしなりに頑張ってるよ。あたし、お金さえ払えば入れるようなFラン大学出身の父親とド田舎のボロっちぃ短大出てる母親から生まれた子だよ。偏差値45あるだけで奇跡だよ。奇跡。それなのにうちの母親ったら文句ばっかり。文句言いたいのはこっちのほうだよ。でね、ひろくんとこの親って両方とも国立出てるらしくてね、しかもお父さんがK大でお母さんがT大だって。やっぱり遺伝ってあると思うよ。ねえ、あーちゃんどう思う?」
あーちゃん?「うん、あるんじゃないかな」


女の子B「だよねだよね。やっぱり遺伝ってあると思うんだ。あたしの頭が悪いのも全部親が悪いんだよ、きっと。あー、なんで親って選べないんだろ。もし選べるんだったら、ひろくんの両親みたいなのを選びたかったなあ。そしたらさ、一流大学、一流企業、若くして社長になったりして。将来バラ色じゃん。それに比べてあたしなんてお先真っ暗だよ。はぁ・・・。頭はあきらめるからどうせなら可愛く生んでくれればいいのに。ねぇ」
あーちゃん?「よっちゃんにはいいトコたくさんあるよ。そんなに落ち込まなくていいと思うんだけど。それに私だって成績そんなに良くないし」
よっちゃん?「ありがとあーちゃん、なぐさめてくれて。そういってくれる友達が一人いるだけであたし嬉しいよ」
あーちゃん?「うん」


このよく喋る子はよっちゃん。
美しい子と書いてよしこ。
本人は名前のこと気にしてるみたい。
これも私にとっては日常の中に埋もれてしまった光景。
よっちゃんを初めて見た人は、そのマシンガントークっぷりに驚くんだけど、私も最初は驚いた、毎日相手してるうちに慣れちゃった。


あんなふうによっちゃんはよく落ち込む。
そんなときに決まって励ますのが私の役目。
よっちゃん、あんなこと言ってるけど、お父さんのこともお母さんのことも大好きなんだ。
私知ってる。
あんなふうにつっけんどんにしてるけど、誕生日にはお母さんに花束贈ったり、お父さんにネクタイプレゼントしたり。
ほんとは親孝行娘なんだ。


そうそう、私はあーちゃん。
・・・?
あーちゃんはあーちゃんだよ。


よっちゃん「じゃねー、またお昼に。あーちゃんとこのクラスに弁当持って行くからね」
あーちゃん「うん。まってる」
よっちゃんとはクラスは別。
でも毎日一緒にお弁当食べてるんだ。
それが日常。
もう思い出すのも大変なくらい前から続いてるの。


よっちゃん「キーンコーンカーンコーン♪あーちゃん弁当たべよー」
あーちゃん「よっちゃん今日も早いね。チャイム鳴る前から廊下で待ってたでしょ」
よっちゃん「今日は物理の先生が・・・」
あーちゃん「昨日は日本史の先生の叔父さんが病気で自習になったんだっけ。で、一昨日は数学の先生が急に体調を崩して自習。その前は・・・」
よっちゃん「へへ」
あーちゃん「うん」


いつもこんな感じ。
いつからかは思い出せないけど、ずっとこんなだったと思う。
とにかく、お昼はよっちゃんとお弁当。
その日もいつも通り、よっちゃんはすぐばれるような言い訳を考えて私のクラスにお弁当を持ってきたの。
でも、その後に交わされた会話。
あとから考えてみたら、それがきっかけだったのかもしれません。


よっちゃん「でさ、明日土曜じゃん、休みじゃん、どっか遊び行こうよ。どこがいい? せっかくの休みだし近場じゃもったいないよね。イ○ンとかカル○ールとかは学校帰りとかでもいけるし、どうせなら遠くがいいね。海? 遊園地? 山登りとか? 遊園地はこの歳でないよね。お金もかかるし。海とかどう? 海水浴とか。交通費だけで一日中遊べるよ。海いいなぁ」
あーちゃん「じゃ海にしよか」


よっちゃん「よし、じゃあ明日朝9時に○○駅で待ち合わせね。持っていく物はー、水着だけでいっか。パラソルとかかさばるもんね。スイカも向こうで買ったらいいし。ああ、あと日焼け止めね。あたしあんま気にしないから忘れてた。また母親にグチグチいわれるよ。もっと女の子らしくしなさいって、あはは」
あーちゃん「うん。りょうかい」


よっちゃん「約束忘れんなよー。いつ、何時に、どこ待ち合わせだっけ?」
あーちゃん「明日、朝9時、○○駅でしょ。で、向こう行ったらパラソルとスイカ、持って行くものは水着と日焼け止め。よっちゃんこそ遅刻とかしないでよね」
よっちゃん「あぁん、あたしが約束やぶったり、遅刻したことがあるってのかい?! えぇ!?」
あーちゃん「うん。知ってる」
よっちゃん「よし、じゃあ明日ね。っていうかこの後も一緒に帰るよね。うちのほうがホームルーム早く終わりそうだから、先に下で待ってるね」
あーちゃん「早く終わるんじゃなくてよっちゃんが先に抜け出すんでしょ。授業もちゃんと受けなよ、掃除当番もね。私ならいくらでも待っててあげるから」
よっちゃん「うん。えへへ」


私とよっちゃんはいつもこんな感じ。
周りから見れば会話が成立してないように感じるかもしれないけど、私たちのあいだではこれが普通。
会話と会話のキャッチボールっていうより、心と心のキャッチボールって感じ。
よっちゃん以外の子とはこんな風に話せないし、お互い無言になっちゃったら途端に気まずくなる。
何か話さなきゃ、話さなきゃ、って、てんぱって無理やり話題を振ろうとする。
このあいだなんか、いい天気だね、いま桜とか綺麗だよね、とか言っちゃった。
梅雨真っただ中の大雨の日に。


よっちゃんとだったら、無言が逆に心地良かったりする。
無理やり話題振らなくても、どちらからともなく、ほとんどよっちゃんからだけど、会話が始まる。
同じ空気を共有してる、同じ空間にいるような妙な一体感を感じる。
そんな相手はよっちゃんだけ。
本人の前では恥ずかしくていえないけど。


よっちゃん。
約束、一回も破ったことないよね。
授業はよく抜け出すけど遅刻は一回もしたことないよね。
知ってるよ、よっちゃんのことなら何でも。


よっちゃん「お待たせー。今日はちゃんと掃除やってきたよ。トイレとかぴかぴかにしちゃった。先生びっくりしてたよ」
あーちゃん「うん。それが普通だから。じゃ、帰ろ」
よっちゃん「だよねぇ。今まで結構さぼってたけど、掃除っていいね。マイブームトイレ掃除、なんちゃって。トイレ専門の雑誌とかあるかなぁ。買ってみようかな」
あーちゃん「あるんじゃない。付録でモップとか付いてたら面白いね」
よっちゃん「あはは、さすがにそれはないっしょ。帰りに本屋寄ってい? もしかするともしかするかもね」
あーちゃん「うん。私も見るのあるし」


そのときでした。
誰かに見られてるような感覚。
思わず振り返ってみましたが、そこには誰もいません。
気のせいかと思いましたが、またすぐに違和感を感じ振り返ります。


よっちゃん「ん? どした? わすれもん?」
あーちゃん「ううん。誰かに見られてるような気がして」
よっちゃん「なんや、あーちゃんの追っかけか? あーちゃん可愛いからなぁ、ファンクラブとか出来ててもおかしくないね」
あーちゃん「そんなのと違うから。ほら、感じない? これ絶対見られてるよ」
よっちゃん「うーん、そういわれても感じないものは感じないし、あたしこんな顔だからファンクラブもできないだろうし。あーちゃん気のせいじゃないの?」


あーちゃん「・・・うん。そうだよね。疲れてるのかなぁ」
よっちゃん「きっとそうだよ。本屋どうする? 早く帰って休んだほうがいいよ。だって明日は海だよ。忘れてないよね」
あーちゃん「じゃあお店の前に並んでる本だけ見て行こ。トイレ専門誌あるかもしれないし、現地でパラソル、スイカ、持っていく物は水着と日焼け止め」
よっちゃん「ちゃんと覚えてるね。っていうかそれ見るために本屋まで行くんだ。あーちゃんがそういうなら行くけど」
あーちゃん「うん」


その瞬間、視線が一斉に消えた、気がした。
まるでまばたきをするかのように。
・・・一斉?
そう、視線は複数。
数個? 数十個? 数百個?
もしくは無数か。
そして再びその感覚はやってきた。
どこから?
感覚を研ぎ澄ませる。
あーちゃん「うえだ!!」


私は首の骨が折れそうなほどの勢いで空を仰ぎ見た。
そこには無数の眼があった。
いつもなら夕焼けに染まり、帰路を鮮やかに映し出しているはずの空が。
無数の眼で覆い隠され、ハッと気が付くと辺り一体が夕焼け色とは似ても似つかない、ダーク系の色で包まれていた。
私はずっと空を見ていた。

△愨海


【短編】カテゴリー紹介

ここは気ままにお話を書く場所。

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